皆さんが便利に使っている携帯電話にはアンテナがあり,このアンテナを使って電波を受けたり送ったりしています。また,電子レンジでは電波のエネルギーを食材に吸収させて調理します。このように,電波は現代社会になくてはならないものですが,人類が電波を正しく認識したのは100年と少し前にしか過ぎません。電波は眼に見えないため,自然界に電波が満ち溢れているのですが,気がつきませんでした。雷は常に世界のどこかで落ちていますが,雷光に伴って非常に大きなパルス状の電流が流れ,そのパルス状電流からは広い周波数の範囲にわたって電波が発せられます。また,光っている星は光学望遠鏡で観測しますが,実は電波によっても観測できます。それは,星は光だけでなく,電波も発しているからです。天文台に行くと電波の望遠鏡,すなわち大きなパラボラアンテナを見つけることができます。
電波は光と同じ仲間の波動で,その最大の特徴は速度が非常に大きく,1秒間に地球を7.5周することです。情報の伝達,あるいはエネルギーや物資の輸送の速度はこの速度を超えることはできません。私達は,この電波のもつ最大速度の御利益を享受しているのです。素晴らしいことと思いませんか。しかし,「いつでも,どこでも,だれとでも」コミュニケートできる,究極の通信が可能となるには,無線通信(ワイヤレス・コミュニケーション)の幅広い領域で,さらなる研究が必要です。
電波は空間の至るところに進入して分布するので,どこでも受信できるのですが,不要な電波も一緒に受信してしまいます。また,使える周波数は有限ですから,大勢の人が同時に,多くの情報を交換できるためには,周波数の有効利用を考えなくてはなりません。
私たちは,電波の出入り口であるアンテナについて研究を行っています。三次元空間の電波の分布をアンテナの指向性によって制御する研究,一つのアンテナで複数の周波数の電波を送受信するための研究,自動車などの移動体に取り付ける小型で美観を損なわないアンテナの開発,などです。眼に見えない電波の振る舞いを理論的に予想してアンテナを設計し,実験によってアンテナが予想通り動作することを確かめるのですが,成功したときの喜びはそれは大きいですよ。大げさに言えば,人類の叡智のすばらしさに感動します。
このような研究ができるようになるためには,まず電波と光を含むグループの電磁波について勉強する必要があります。電磁波は電界と磁界からなる波動です。電界と磁界については電磁気学でその基礎を勉強します。私達のゼミでは,まずこれらの基礎学問から勉強を始めますが,これらの学問は数学の定理がそのまま適用される,極めて純粋な学問であることに驚くことでしょう。物理と数学の好きな多くの諸君と,これらの学問の素晴らしさ,面白さを共有できたらいいなと思っています。